昭和30年代、私が働いていた電話局では、今では見かけなくなった
「火鉢」が冬の必需品でした。
各部屋に大きな火鉢が一つずつ置かれていて、みんなでそのぬくもりを
分け合いながら仕事をしていたものです。
火鉢が職場の真ん中にあった時代
まだ電気ストーブもエアコンもあまり普及していなかった頃です。
火鉢の炭に火を入れ、やかんをかけて湯を沸かしながら、寒さをしのぐ。
時にはその湯でお茶をいれたり、手を温めながら談笑したりと・・・、
それは普通の光景です。
火鉢は職場の真ん中で、ほっとする存在でもありました。
寒い冬の日、火鉢のまわりに自然と人が集まり、会話も生まれる。
そんな光景が、今でも目に浮かびます。
でも、私には少しつらかった火鉢
ただ、私にとって火鉢は、決して「懐かしくて温かい思い出」だけではありません。
私は子どもの頃から、一酸化炭素にとても敏感でした。
火鉢から少し離れた席にいても、長くその場にいると頭が重くなり、やがて
激しい頭痛に襲われるのです。
当時の職場には換気扇もなく、窓もそう頻繁には開けられませんでしたから、火鉢の煙が室内にこもることも珍しくありませんでした。
気分が悪くなっても、仕事中は我慢するしかありませんでした。
帰宅後、すぐには動けず──家事との両立も一苦労
毎日、仕事を終えて家に帰ると、まずは布団に横にならないと何もできませんでした。
体調が落ち着くまで少し休んでから、夕飯の支度に取りかかるのが日課になっていました。
当時は、今のように「体調が悪いから在宅勤務」などという選択肢はありませんでした。
職場でも家庭でも、女性はどんなに疲れていても無理をして当たり前という空気があったのですね。
でも今思えば、あの頃の自分はよく頑張っていたなあと、時々思うのです。
若くても、辛いものは辛かった。
けれど、それでも一日一日をこなしていた自分を、今では少し誇りにも感じています。
火鉢とともにあった昭和の職場を、今思い出す
火鉢のある職場というと、今の若い方には想像がつかないかもしれません。
火鉢という道具自体、もう家庭でもあまり見られなくなりました。
でも、あの頃の私たちにとっては、それが当たり前の日常でした。
寒さの中、火鉢に手をかざしながら仕事をし、体調を崩しても黙って乗り越えていた時代。
決して楽な時代ではありませんでしたが、そんな毎日にも、ささやかなぬくもりや仲間とのつながりがあったことは、今も心に残る思い出です。
おわりに
今では便利な暖房器具があふれ、換気や健康への意識も高まっています。
昔に比べてずいぶん暮らしやすくなったと感じます。
けれども、火鉢のあるあの職場の日々は、私にとって忘れがたい時間です。
身体にはこたえましたが、あの時代を生きたからこそ、今の平穏をしみじみとありがたく感じられるのかもしれません。
昭和を生きた私の小さな体験が、誰かの心に懐かしく響いたなら、とても嬉しく思います。
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